
佐竹美奈子
_「もう夏だね…」

佐竹美奈子
貴方は小声で、教科書越しに私に告げると、にっこり笑った。

佐竹美奈子
私の真隣が貴方。もう、すっかり定位置として定着しちゃったね。

佐竹美奈子
今夜はお祭りがあるせいか、既にお祭り気分の教室。まるでお囃子みたいに騒がしくて…。

佐竹美奈子
誰々が誰々とお祭りに行くとか、そんな色恋沙汰の浮いた話に花が咲いていた。

佐竹美奈子
「そうだね」

佐竹美奈子
顔が赤くなる前に、私は貴方から視線を逸らして、窓に視線を持っていく。

佐竹美奈子
そういえば春に、この桜の木から、美しい花びらが舞ってたいたな~。

佐竹美奈子
今はないけど、次の春まで見ることはできないけれど…。

佐竹美奈子
心の花びら…。

佐竹美奈子
桜色に染まった窓から、今も舞っている…。

佐竹美奈子
私、恋してる。初めての恋。

佐竹美奈子
どこにいても貴方の事を考えていて。気付けば視線で追っている。

佐竹美奈子
貴方の事を想うだけで、嬉しいのに、すぐ切なくなるの…。

佐竹美奈子
だって、好きって言いたいのに、いつも、いつも言えなくて…。

佐竹美奈子
だけど、今日の帰り道には、きちんと貴方に伝えよう…。

佐竹美奈子
そう心に決めたのに…

佐竹美奈子
放課後、学校の帰り道。

佐竹美奈子
やっぱり言い出せなくて、その一歩を踏み出せなくて…

佐竹美奈子
黙る私。無言の時間のせいか、いつもと違う帰り道みたい…。

佐竹美奈子
_「ねえ、どうしたんだよ?」

佐竹美奈子
心配そうに私を見つめる貴方。

佐竹美奈子
優しくて…優しすぎて…うれしいのに、うれしいはずなのに…。

佐竹美奈子
なんでかな…、急に胸が締め付けられる様に痛くて…。

佐竹美奈子
泣きそうになったの…。

佐竹美奈子
いつもの分かれ道。私と貴方の分かれ道。

佐竹美奈子
ついに、何も伝える事の出来ないまま着いちゃった…。

佐竹美奈子
いつもの様に貴方は微笑むと、さよならって手を振ってくれる。

佐竹美奈子
なんだか、そんな貴方に、もう会えないような気がして…。

佐竹美奈子
「貴方が好きです」

佐竹美奈子
思わず、口からそう零した瞬間に…。

佐竹美奈子
ひゅるひゅるひゅるひゅるど~んっ。

佐竹美奈子
遠くから、まるで…私の心を表すみたいに。

佐竹美奈子
花びらの様に綺麗な花火が舞った…

佐竹美奈子
でもそれは、私の初恋が弾けて、終わる事を告げるような。

佐竹美奈子
そんな、聞きたくはない嫌な音だけれど…

佐竹美奈子
その刹那、そう思っちゃったんだ。

佐竹美奈子
だけど、何だか嫌いになれなかったかな…

佐竹美奈子
あっけなく散るその花火があまりに美しくて、私は見惚れていたから…

佐竹美奈子
私の手は、視線は空を見ていた。

佐竹美奈子
恋の花火、切なくて…泣きそうだ…。

佐竹美奈子
_「大丈夫だよ、僕も一緒だからさ」

佐竹美奈子
貴方はそっと、震える私の手を握ってくれた。

佐竹美奈子
「うれしい…です」

佐竹美奈子
そっか、あれは初恋が弾ける音じゃなくて。

佐竹美奈子
二人の恋が始まる音だったんだね。

佐竹美奈子
「ふふっ…」

佐竹美奈子
_「へへっ…」

佐竹美奈子
私達はお互いの気持ちを確かめる様に、暫くその場で笑い合った。

佐竹美奈子
そんな貴方は、私の初めての恋人。
(台詞数: 50)