佐竹美奈子
……仙術を極め、永く天から下界を眺めても、人の世の争いは絶えることが無いようです。
佐竹美奈子
……日々必要となる糧(かて)。それが人の世に足りぬことが、戦のひとつの理由のようです。
佐竹美奈子
……天界に封じられし仙宝のひとつ、その名を『視肉(しにく)』。
佐竹美奈子
いくら切り取っても自己修復し、尽きること無い肉塊。皆人の腹を満たすことができましょう。
佐竹美奈子
……しかし古(いにしえ)、視肉が封じられし由縁(ゆえん)は、ある人の王の暴挙から。
佐竹美奈子
視肉を無限の糧秣として、兵を率い戦を巻き起こしたがため、人の世が多いに乱れたものです。
佐竹美奈子
……無限の糧が、争いを無くすのか。はたまた争いを掻き立てるのか。それを確かめましょう。
佐竹美奈子
さればひとたび視肉の封印を解き、下界へ降り立つといたしましょう……
横山奈緒
……
福田のり子
……
横山奈緒
お、のり子の今日のお昼は焼肉弁当か!一枚肉を恵んでや!
福田のり子
やだよ。お給料が足りないから遊園地でバイトして、なけなしのお金で肉を買ってるんだから。
福田のり子
そういう奈緒は、今日もお好み焼き持って来たの?好きなんだね〜。
横山奈緒
やかましいわ!キャベツしか入っとらんし、こんなんお好みちゃうわ!
横山奈緒
お金無いから、マヨネーズで誤魔化しとるんや……
横山奈緒
お金無いから、マヨネーズで誤魔化しとるんや……とか言うといて、お肉いただき!
福田のり子
そうか、奈緒は大阪から越して来たから大変だね……
福田のり子
そうか、奈緒は大阪から越して来たから大変だね……って!肉盗るな!
佐竹美奈子
……ささやかではありますが、ここでも糧をめぐる争いが有る様です。
佐竹美奈子
とりあえず厨房に忍び入り、視肉を切り分け料理を拵え、置いておいて成り行きを観ましょう……
福田のり子
あれ?美奈子、来てたの?久しぶりじゃん。
佐竹美奈子
……
佐竹美奈子
『……あ、お久しぶり、のり子ちゃん!今日は調子がいいから来ちゃった。』
佐竹美奈子
(咄嗟に短髪の娘の頭を覗いて話を合わせましたが……会話は破綻していないようですね。)
横山奈緒
美奈子〜。体調がいいにしても、その格好は寒そうやで。練習着でも着ときや。
佐竹美奈子
『……やっぱりそうかな。ちょっと着替えて来るね。』
佐竹美奈子
(この場をしのぐために、美奈子という者の装束を借りましょう。羽衣は置いておいて……)
佐竹美奈子
(美奈子という者は、二人の同輩ですか。私に姿の似た飯店の娘で……病の床に伏していると。)
福田のり子
うわー!美奈子の料理も久々だね!やっぱり凄く美味しいよ!
佐竹美奈子
『……のり子ちゃん。今日は気合いを入れてお肉沢山持ってきたから、沢山食べてね。』
横山奈緒
美奈子、ホンマありがとうな。私、これでしばらく生きていけそうや〜。
佐竹美奈子
『……奈緒ちゃんは大袈裟だよ。奈緒ちゃんの食べてるの見てると、作り甲斐あるけどね。』
福田のり子
いやいや、満腹満腹。ガンガンお肉食べられたよ。レスラーになった気分。
横山奈緒
……美奈子、またレッスンに来れるようになったんか?
佐竹美奈子
『……とりあえず今日は来れたけど……これからのことは分からないよ。』
佐竹美奈子
(やはり糧は、人の争いを無くすもののようです。では、天界に帰ることとしましょう……)
佐竹美奈子
『……あれ?ここに置いておいた羽衣……、ストール、どこに行ったかな?』
横山奈緒
あのキラキラした布か?……もしかしたら、ロコの仕業か?
佐竹美奈子
『……路子(ろこ)?』
福田のり子
最近入った子だけど、マイペースに色んな物をデコレーションしてさ……ぶっ飛んでるんだ。
横山奈緒
ご愁傷様やけど、今ごろあのストール、切り刻まれてどっかの街路樹の飾りになっとるかもな。
佐竹美奈子
……
佐竹美奈子
(天界に帰る術を失った私は……
佐竹美奈子
(天界に帰る術を失った私は……件の美奈子の体を借り、この世に留まることとしました。)
佐竹美奈子
(美奈子も、私を受け入れることで健康を取り戻し、歌舞の力も料理の力も高まりました。)
佐竹美奈子
(天に帰るための仙力を貯めるため、劇場に通い店に帰る日々です。)
佐竹美奈子
(そして……再封印できず増殖し続ける視肉で、世が肉に溢れることを防ぐ天命もできました。)
佐竹美奈子
(難しいことではありません。増える量と均衡をとり、調理し仲間に食べさせれば良いのです。)
佐竹美奈子
(そして……今は、こういう日々を楽しく感じている己があるのが、不思議なものです。)
佐竹美奈子
プロデューサーさん、朝ご飯食べてきました?食べてないなら台所にレバニラ炒めありますよ!
(台詞数: 50)