望月杏奈
お通夜にはたくさんの人が参列していた、クラスメイトはもちろん、学校の人もたくさん来てた
望月杏奈
お通夜の間、誰かのすすり泣く声が聞こえた
望月杏奈
杏奈は他の子みたいに涙が出てはこなかった
望月杏奈
ただ心のどこかに大きな穴が空いたみたいな感覚以外は何も感じなかった
望月杏奈
杏奈はただここにいるだけだった、ここにいて、ここにある景色を呆然と眺めている
望月杏奈
以前のような世界…それだけだった
望月杏奈
お通夜が終わって、人が波のように出口に向かっていく
佐竹美奈子
あの、望月杏奈さんですか?
望月杏奈
…誰かに声をかけられて、杏奈は現実に引き戻される
望月杏奈
はい、そうですけど…
佐竹美奈子
私は佐竹美奈子、そしてこっちが横山奈緒、私達、百合子ちゃんの幼なじみです
横山奈緒
これ、百合子が望月さんにって残したものなんやけど、受けとってくれへんかな?
望月杏奈
…そう言ってその人達は杏奈に封筒を渡してきた
望月杏奈
~If winter comes, can spring be far behind~
望月杏奈
~杏奈ちゃんへ、七尾百合子より~と封筒には書かれていた
佐竹美奈子
杏奈ちゃんのタイミングでいいから、もし私がいない世界を受け入れるようになったら…
佐竹美奈子
その時は読んでって百合子ちゃんが
望月杏奈
わかりました…
横山奈緒
百合子な、私らが会いに行ったとき、いつも望月さんの話を楽しそうにしてくれててな
佐竹美奈子
もうずっと、杏奈ちゃんの話をしてくれたんだよ、杏奈ちゃんが会いに来てくれて嬉しいって
横山奈緒
だから…何かもし困ったことがあったらいつでも私らに相談してな
望月杏奈
あの…はい
横山奈緒
望月さんは百合子の大事な友達だからな!
望月杏奈
あ、あの…杏奈は…百合子と友達だったんですか?…その…ちゃんと友達に…なれてたのかな?
佐竹美奈子
あのね、友情は、いつの間にか芽生えてるものじゃないかな
横山奈緒
それに友達やなかったらわざわざこんな手紙残さないと思うで
佐竹美奈子
だから杏奈ちゃんと百合子ちゃんはちゃんとした友達だよ!
望月杏奈
…杏奈は百合子と友達だったんだ…心に空いた穴に百合子と過ごした日々の思い出が流れこむ
望月杏奈
…短かったけど…杏奈の人生の中で一番濃くて充実してた…時間…なんだか胸が苦しくなってきた
横山奈緒
だから、私ら二人のことも友達だと思って、いつでも頼ってな、な?
望月杏奈
あの…はい…ありがとうございます…今日はその…失礼します
望月杏奈
…杏奈はその場から逃げるように走り去った
横山奈緒
あの子ほんまに…大丈夫やろか…
佐竹美奈子
…
望月杏奈
…杏奈は人目も気にせず走って家まで帰った
望月杏奈
玄関を開けるとお母さんがいて、お母さんにその顔どうしたの?と聞かれた
望月杏奈
玄関にある鏡を見ると杏奈の目は充血したのか赤くなっていて、涙が頬を伝っていた
望月杏奈
走ったせいか顔が熱くて、でも表面は少し冷たくて
望月杏奈
お母さんが持ってきてくれたタオルで杏奈は顔を拭った
望月杏奈
杏奈は自分の部屋にこもって、封筒を眺める
望月杏奈
~If winter comes, can spring be far behind~
望月杏奈
杏奈にはそれがどういう意味なのか全くわからなかった
望月杏奈
それに杏奈には封筒を開けて百合子からの手紙を読む勇気もなかった
望月杏奈
読んだらもう戻れない気がして、百合子とさよならしなくちゃいけない気がして
望月杏奈
だから杏奈はその封筒を鞄に大事にしまった
望月杏奈
人生で最初で最後の大事な友達からの手紙を読める時がくるまで…
望月杏奈
~そして少女は今宵ももう一人の友人を待ち続ける、来るはずもない友人を~
(台詞数: 47)