Sentimental Venus2
BGM
フローズン・ワード
脚本家
三万石
投稿日時
2015-06-02 20:26:29

脚本家コメント
2とタイトル付けてはいるものの、シリーズ物ではありません。
この書き方だと、どうしてもプロデューサーが出しゃばってしまいますね。精進精進。
次に同タイトルで書くことがあれば、アイドル同士の絡みにしてみようかな。

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所恵美
オーディション会場から事務所に戻っても、アタシとプロデューサーはずっと無言だった。
所恵美
ーーこのオーディションに受かれば、恵美はかなり全国区のアイドルになれる。
所恵美
希望に満ちた未来を、自分のことのように話すプロデューサーは、子供みたいで。
所恵美
アタシの気合だって、相当なものだった。ーーけれど。
所恵美
ーー申し訳ないけれど、今回はお仕事の縁がなかったということで。
所恵美
アタシは申し訳なさでいっぱいで、車内でプロデューサーに謝ることもできずーー
所恵美
プロデューサーも私の心境を読んだのか読んでないのか、一言も口を開かなかった。
所恵美
……なんでアタシはこうダメなんだろうな……。
所恵美
プロデューサーから貰った水晶が、私の心とは裏腹に力強く輝いている。
所恵美
ーー恵美には、上品で凛とした部分がちゃんとある。俺はそれを分かってるつもりだ。
所恵美
……やっぱり、アタシにはそういうの無いよ。プロデューサー。
所恵美
悔しさを押し殺して明るく振舞うことも、女の子らしく泣いて謝ることも出来ない。
所恵美
無言でソファーに体操座りして、只々プロデューサーからの言葉を待ってる臆病者。
所恵美
それが、所恵美なんだよ。プロデューサー……。
所恵美
……どれくらいそうしていたかは覚えてない。
所恵美
ーー恵美、ちょっとそっち行っていいか?
所恵美
突然の申し出に、アタシはまたしても無言でプロデューサーに背を向けてしまう。
所恵美
ほんと、自分で自分が嫌になる。さっさと怒られるなり慰められるなりすればいいのに。
所恵美
頭の中では色んなシチュが浮かぶのに、身体は何一ついうことをきいてくれない。
所恵美
ダンゴムシみたいにソファーの上で丸まってるアタシの背中に、少しだけ衝撃。
所恵美
それがプロデューサーの背中だと分かったのは、背中越しに彼の体温を感じたから。
所恵美
背中だけ触れあったまま、プロデューサーは怒るでも慰めるでもなくーー
所恵美
ーー悔しいな。
所恵美
囁くように、その言葉を口にした。
所恵美
ーー恵美の魅力を、解らせてやれなかった
所恵美
ーーーー悔しい
所恵美
待って、待ってよプロデューサー。それだと、まるでーー
所恵美
ーーまるで、落ち込んでいるのがプロデューサーで、アタシが慰める役じゃないか、
所恵美
喉まで出かかったその言葉を咄嗟に飲み込むことで、アタシは最低にならずに済んだ。
所恵美
プロデューサーから出てくる言葉は、全部アタシが言いたかったこと。言うべきだったこと。
所恵美
それを敢えて代弁することで、アタシに共感させることで、彼は吐き出させようとしている。
所恵美
情けない。情けない情けない情けない情けない情けない情けない。
所恵美
大の男性に、そんなみっともない泣き言を言わせたことも。
所恵美
それに甘え、縋ってしまう自分自身も。何もかもが情けない。
所恵美
アタシにできるのは、この小芝居を終わらせることだけ。プロデューサーはそれを待っている。
所恵美
口を開けば決壊しそうな嗚咽を必死に抑え、震える声を押しとどめてーー
所恵美
ーー安心して、プロデューサー。アタシが絶対皆を見返してあげるからさ。
所恵美
なんの根拠も説得力もない、小娘が絞り出した虚勢。そんな言葉をーー
所恵美
ーーそっか。ありがとな。
所恵美
そんな風に、信じちゃうから。信じて、くれちゃうからーー
所恵美
気付けばアタシは、背中越しにプロデューサーの手を握りしめていた。
所恵美
声をあげなかったのは、せめてもの意地。
所恵美
頬を伝う涙も、震える肩も、何もかも背中越しにバレバレだと分かっているけれど。
所恵美
何も言わず、黙ってアタシに付き合ってくれる彼の優しさを忘れないようにーー
所恵美
水晶を、宝物だと胸を張って言えるようにーー
所恵美
この瞬間だけ、アタシは子供になった。
所恵美
明日から、少しだけ大人になるために。

(台詞数: 47)